会長挨拶

 東北大学農学部同窓会会員の皆さまにおかれましては、益々ご活躍のこととお慶び申し上げます。私こと、2019年3月末をもって、学部長・研究科長の任期満了で職を退任し、学部内ルールに従い、この度農学部同窓会長の任務に就くことになりました。前会長の駒井三千夫教授の後任として、微力ではございますが、務めさせた頂きます。よろしくお願い申し上げます。また、農学部・農学研究科は、新学部長・研究科長である阿部敬悦教授の指揮のもと、世界のトップクラスの教育研究が展開できる学部・研究科として、なお一層邁進していきますので、引き続きご支援をよろしくお願い申し上げます。
 さて、農学部が2017年4月に68年間住み慣れた北六番町の雨宮を離れ、青葉山に総合移転をしたことに関しては会報93号、94号、96号でお知らせしてきたところです。新キャンパスへの引っ越しは2016年11月に開始しましたので、この会報が皆様のお手もとに届けられる頃には、ほぼ3年が経過しようとしている頃かと思います。大学にとって3年と言う年月は大きいもので、すでに現在の農学部生は、雨宮キャンパスのことをほとんど知らない世代となっています。最上級生である4年生が、入学試験や入学オリエンテーション、1年次前期の金曜日に開講されている研究室めぐりの授業で雨宮キャンパスに触れた経験がわずかにあるのみで、3年生以下の学生は雨宮キャンパスのことを全く知りません。先日、1年生開講の授業で会話した学生の多くは、雨宮キャンパスの場所はおろか、農学部が長い間単独のキャンパスを持って研究教育を行ってきたことすら知らないことに、改めて驚かされました。当たり前と言えば当たり前のことですが、今年度の4年生が卒業すれば、農学部の学生全員が雨宮キャンパスを知らない世代に入れ替わります。
 雨宮キャンパス最後の年となった2016年10月末に近隣の商店会や町内会の方々と共に感謝の意味を含めて、「雨宮キャンパス感謝祭」を開催しました。詳細は会報92号、93号でお知らせしました。農学部同窓会、公財である翠生農学振興会に協力を得て、駒井三千夫実行委員長の下、金子淳准教授(応用微生物分野)らが中心となり、キャンパスの歴史を振り返りました。私の個人的な感じ方だったのかも知れませんが、その時はこれから移る青葉山新キャンパスへの思い入れ、期待感、そして高揚感もあり、今一つ雨宮キャンパスを離れることの淋しさを実感しなかったことを覚えています。しかし、今ではすっかり更地となってしまったキャンパス跡を目の当たりにして、周りの学生と雨宮の思い出も共有できないことを知り、改めて淋しさを感じるこの頃です。今年の3月、農学部で行った学位授与式(卒業式)では、私は次のような祝辞を述べました。
 「皆さんは今ではもう、影も形もなくなってしまった雨宮キャンパスで、専門授業を受けた最後の学年となります。皆さんの後輩に雨宮キャンパスで専門の授業を受けたことのある農学部生はいません。忘れかけているのかもしれませんが、わずか半年の期間でも通った雨宮キャンパスのことをしっかり記憶に留めておいてください。本日、午前中に行われた全学学位授与式で、卒業生代表として答辞を述べられた中野芙美香さんから雨宮キャンパスでの思い出が語られました。私も非常に嬉しく思ったところですが、皆さんの先輩、おおよそ1万人の農学部生が青春を謳歌した雨宮キャンパスだったのです。」
 青葉山新キャンパスに移るにあたり、雨宮農学部の遺構、記念碑、歴史的建造物等、何を新キャンパスに移設すべきかの議論をしました、その時、改めてわかったことですが、いわゆる雨宮キャンパスに存在した遺構、歴史的な価値があるとされる記念碑、歴史的建造物は旧制第二高等学校に由来するものばかりで、農学部に由来するものはほとんどないという事実でした。例えば、門衛所(正門右手の守衛室)、栗野観音像、雄大剛健之碑などです。なお、これらはイオン(雨宮キャンパスの購入先)の厚意により、敷地内一角に記念苑をつくり、残して頂けることになりました。退職教員や卒業生の記念樹、農学部50周年碑などの移設はすぐに決まったのですが、農学部68年間在住の証となるような記念碑は何かないものだろうかとあれこれ思いを巡らせました。そんな中、私が思いついたのは正門の移設でした。しかし、私の提案に対して、当初東北大学本部施設部の回答は冷たいものでした。「何の歴史的価値もない、旧制第二高等学校の小柱を再利用しただけのただの門柱」でした。売り言葉に買い言葉で、私も「農学部卒業生1万人の往来を見守った由緒ある雨宮農学部の正門である。」と強く反論しました。最終的には私の主張を理解頂き、写真1のように雨宮農学部記念碑として、青葉山新キャンパスの農学系総合研究棟北出入口の傍らにひっそりと、かつ立派に移設して頂くことができました。碑には、以下のように紹介文が書かれています。新キャンパスにお出での際は、どうぞお訪ねください。
 「この門柱は1925年(大正14)旧制第二高等学校北六番町新校舎の正門の小柱として築造されたものであり、1949年(昭和24)から東北大学農学部雨宮キャンパスの正門として使用された。築造当初は親柱一対とその両外側の小柱から成っており、親柱は昭和30年代に撤去されたが、小柱は2016年(平成28)に農学部が青葉山に移転するまで使われ、1万人を超える農学部生の往来を見守り続けた。」
 同窓の皆さまには、今後とも新生農学部・農学研究科に対するご支援とご指導をお願いするとともに、皆様のご健勝と益々のご活躍を祈念申し上げ、挨拶とさせて頂きます。

会報第98号(2019年10月1日発行)新同窓会長の挨拶より